ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。
NPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)評議員

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

北の大地を釣り歩く。(5)

前回の(4)から少し期間があいてしまったが、この話には実はまだまだ続きが存在する。

今回は「海サクラ」を追った時の話をしていこう。

海岸に注ぐ幻想的や優しい太陽の光。

 

 

 

 

 

 

 

私が訪れていた5 月~6月は北海道における海サクラシーズンも中盤を過ぎ終盤期が迫ってきた頃。

通常、サクラマスはその名の通り、桜の咲く時期に海から川に遡上してくる魚であり、大部分の魚はこのタイミングで河川内に入り、産卵が行われる秋まで川の中に留まる。しかし中には水温の過度の上昇に耐え切れず死んだり、酸欠で死んだりするサクラマスも実際は多い。そのような中、春に遡上する一般的な群れとは少し違う形態をとる個体群も確認されている。

朝マズメは海サクラ狙いの格好のチャンス。例えば東北・三陸沿岸の河川では「サマーラン」と呼ばれる、真夏になってから河川に入ってそのまま時間をかけずにヤマメが生息する上流域まで一気に遡上していき秋の産卵期に備える個体群もいるのだ。

 

この類の魚は北上川水系以北の三陸沿岸河川に集中的に確認されている。4年ぐらい前の話だが、かつて私も7月末日の真昼間に北上川下流域でシーバス狙いで投じたシンキングペンシルを水面を激しく割って出たサクラマスを掛けたことがある。当時は掛けてビックリしたものだった。更に8月にバス釣りをしていた時にアシ際に撃ち込んだスピナーベイトに、なんとサクラマスが掛かった釣友もいる。又、6年前の8月には岩手県宮古の海でアイナメ狙いの最中に磯場のワンド最奥で突然、カタクチイワシ追ってサクラマスの群れが物凄いボイルを起こしているのを目の当たりにし驚いた記憶もある。これらは、いずれもサマーランと呼ばれるサクラマス達の姿である。

沖の離岸堤の隙間を狙ってフルスイングでジグを飛ばす。北海道では本州とは異なり、川でのサクラマス釣りは禁じられているため、必然的に海で釣ることになるがやはり最も人気が集中するのは3月~4月ぐらい。

 

 

それでも5月~6月も釣れ続け、例年、7月下旬に最後の群れが接岸するという一説を耳にしてすいぶんと久しい。

青い海と深い山々が織りなす積丹半島。釣り人ならずとも一度は訪れたい絶景の地である。しかし、7月と言えば北海道が最もいい時期。ロックフィッシュも、ヒラメも、青物も、道東の海アメも道内全域でソルトウォーターゲームはどれも最高に楽しい季節柄、最後の最後まで海サクラだけを追い続ける人はさすがに多くはない。

もっとも、海サクラにおける人気釣り場の一つ・道央の日本海側では5月~6月上旬頃が一番釣りやすい時期とされている。

私がロックフィッシュ関連のロケで訪れていた積丹半島周辺は、アイナメは釣れ始まったばかりだったが、ちょうど海サクラはベストシーズンに入っており、事実、私の滞在期間中にはなんと驚愕の6キロオーバーのサクラマスが2本揚がったという話を聞いた。このタイミングで現地の釣友も見事な4キロオーバーのサクラマスを手にしていた。

いずれも積丹半島での釣果である。

海と山が一つの自然の造形美を醸し出す。私の地元は東北の宮城であるが、宮城県内でも東北最大の流域面積を誇る北上川水系をはじめサクラマスが遡上する河川は複数に及ぶ。が、しかし6キロオーバーのサクラマスともなると、さすがに本州では聞いたことはない。

道内ではサクラマスは、大きさよりも、重さに重点を置く傾向が強く、逆に東北ではサイズを重んじる傾向があるため、東北各地のサクラマス釣り場では「あの川で○○cmの魚が出たらしいよ」という噂を耳にすることはあっても、その重量に関する話題はまず出てこない。

これも地域差だろうか―。

ただ私が思うのに北海道であれ、東北であれ、北陸や関東であれ、釣れている魚は同じサクラマスであることには違いないから、“一般的”に日本国内で釣りで狙える最大サイズは70cmまでと考えると、体高と幅が東北以西の河川に遡上する個体群よりも遺伝子レベルで大型化するDNAを持つ個体群が日本の最北に位置する北海道に多いことは確かだ。

 

石がゴロゴロ広がっている砂利浜にも海サクラマスは回遊してくる。ロシアではサクラマスのことをシーマと呼ぶが、北海道より更に北のロシアの河川に遡上する個体群は日本の河川に遡上する個体群よりも総じて「板マス」と呼ぶに相応しい魚が多い。

魚の形が細長スリムではなく、ひし形をしている。こうなってくると見た感じからして別の種類の魚と思えるほど、物凄い迫力がある。

 

 

まるで飲料水を思わせる水の透明度。こんなクリアな海に銀影を追った。これらには緯度による水温と海にいる時期のエサの摂取量と栄養面が深く関係していると思われるが、同じ60cmのサクラマスでも北海道のそれと東北のそれではまるで別の魚に見えるほど、迫力が違って見えることが多いのもうなずける。

元々、冷水魚であるサケ・マスの類は北に行けば、行くほどフィールド規模が広がりを見せることは不変の事実のようだ。

 

さて。通常、私の「1年間の釣りサイクル」は3月と4月はサクラマスのみ。仮にサクラマス以外の釣りに行ったとしてもバス釣りぐらい。要は海水温がまだ不安定な海の釣りは、アタリ・ハズレの差が大き過ぎるので、この時期だけは大人しく淡水の釣りに集中している。

時にはこんな浅瀬付近までサクラマスがルアーを追ってついてくる、というから侮れない。そのかわり5月中旬を過ぎれば、ロックフィッシュにフラットフィッシュ、シーバス、青物…と連日、海の釣りが忙しくなるため淡水の釣り場に行くケースは激減し年を越すまで、ほぼロックフィッシュに特化した釣行になる。

特にここ近年では「海釣りは5月20日以降にスタート」と自分の中で区切りを設けているので、春はひたすら“マス三昧”。が、しかし今年は連休明け早々からロックフィッシュ取材が続き、4月下旬の時点で後ろ髪惹かれる思いでサクラマス釣りを早々に切り上げなくてはならなかった。

5月・6月・7月とこの3ヶ月間だけでもロックフィッシュは大多数の釣果を伴っているが、先の北海道滞在期間中は朝夕ともなればまだ肌寒い季節柄、「マスが釣りたい!」と思う気持ちがなかなか消えず、もしチャンスがあれば…とロックフィッシュタックルの中に少しばかりトラウトタックルも忍ばせて北海道へ向かった。

 

山頂の残雪と新緑と清々しい空の青色がとても心地よい。ノースアングラーズ誌のロックフィッシュ取材を予定していた当日はあいにくの強風とシケ模様のため、前日の段階で「この天候では予定地の撮影は無理なので取材日を翌日にずらします。」とカメラマンから連絡が入った。

取材が明日へ持ち越しとなり、急遽オフの日が出来た。これはラッキー! まさしくトラウトタックルの出番だ!(笑)。

翌日に備え、あえて体力を温存するのもいいが、風が強く、磯周りにウネリが強く当たっているだけで天気は快晴。ホテルの部屋に引きこもっていても時間が勿体ないので、取材共演者の安瀬君に声を掛け、夜明けを待たずにトラウト探しの旅に出た。

隅々まで澄んだ空気。北海道の自然の魅力は尽きない。根魚釣りのようにワームを用いて常にボトムを攻める釣りではないため、海サクラの釣りはキャスト&リトリーブの釣り。ルアーさえ投げられれば魚が釣れる・釣れないは別として少しぐらい風があっても釣りそのものは成立する。

まずは、とにかく風裏となる場所を探しながら積丹半島一帯をくまなく釣り歩いたが、ベイトフィッシュが接岸している様子はなく魚の気配はどこも感じられない。それでも朝3時過ぎには多くのアングラーがウェーダー着用で海辺に立っている風景を見ると、この釣りがいかに熱い釣りであるかが伺い知れる。

サクラマスを追う釣り人の朝は全国どこにいっても異常なまでに早いのだ。

当日は古平~積丹半島全域を経由して岩内、そして寿都までの日本海をランガンしながら広範囲を釣り歩いた。

 

次回へ続く。