ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。
NPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)評議員

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

桜、花旅。~サクラマスの話~(3)

この日もまた北上の大河と正対する。

前日に続けて2日目となる釣行だ。

潮回りが同じ、あるいは限りなく近いなら、川に突如として大きな変化が起きない限り、翌日も出会える可能性が高いのもまたサクラマス釣りだろう。

とはいえ、サクラマス相手のこと。

人間の思い通りにはいかないこともまた長年のつきあいだから、よく分かっている。

この日は天気が急変し、フィールドは朝から冷たい雨に打たれていた。

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大粒の雨が水面(みなも)を叩いて揺らす。

 

そして、のちに雪へと変わっていった。

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4月20日を過ぎているにも関わらず、ときおり視界を遮るほどの湿った雪。

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予備のタックルにも雪が積もっていく…。

 

基本どんな釣りでもそうだが、雪や雨の日の釣り場はすいていることが多い。

4月中旬、当地のサクラマス釣り最盛期を迎えた日曜日だというのに今日は人が少ない。

それもそのはず―。

人間心理として、誰もが冷たい雨に濡れるのを進んで好むことはあまりないであろうし、このような条件の中、釣りに没頭するには余程の覚悟と「釣りたい意志」を有していなければ心が折れる、というものだろう。

あとは、それを支えられるだけの“確信”も必要だ。

正直、雪の中や雨の中での釣りは私とて、それ相応には苦痛に感じる。

しかし、この日は違う。前日にも釣果を伴っていたことから、幸いボルテージは上がったままだ。

午前中の釣りは何事もなく過ぎ、昼が過ぎた。

早朝から雨・雪に濡れ続けることに耐えていたウェアの防水効果も多少なりとも雨の染みが気になるようになってきた。

4月とは思えない寒さに身体は芯から冷えている。

食事を取りつつ小休止。

ここは一度、仕切り直そう。

 

装いを新たに身支度を整え、午後3時頃ふたたび川に立つ。

しばらくすると雨が止み、暗い雲の隙間から陽が射した。

その後のことだった。

川を遡る、サクラマスの群れが川のド真ん中で突如として跳ね始めたのだ。

魚の跳んでいる流芯までおよそ60m強の距離。

まるで、海サクラマスがエサに狂喜乱舞しボイルしているかのような跳ね方で、上流へ向かって跳んでいる。

これは単発的な“跳ね”ではない。

魚の大群が今、大きく動いているのだ。

サクラマスの細胞が、陽の光を浴びて急激に活性化したのだろうか。

いずれにしても、今この瞬間にも“本日の山場”は一刻一刻と迫っている…と思えるものだった。

魚の居場所までの距離が遠いことから、スプーンを投げていた私は更なる飛距離だけでなく、スプーンやメタルジグ以上のアピール力を増すために1ozのメタルバイブにチェンジ。

誰よりも遠くに、誰よりもルアーを目立たせ、水を切り割くようにルアーの速度を直線的に維持してハイスピードで引く。

これは前年度(2012年5月)、北海道の海サクラマスの釣りにてジグミノーの高速引きでヒットさせた経験(でも、この時はバラシに至る)をこの川に向けてアレンジし、私なりに再現した釣り方。

 

すると、隣に入っていた奥田さんと私にダブルヒット!!

奥田さんは青銀カラーのスプーンを超遠投しての表層引き。

私はメタルバイブの上層高速引きでのヒットだ。

私の方がルアーが重い分、より遠くまで飛んでいるので沖の位置で掛かっているが、いずれにしても隣同士でお互いにファイト態勢に入る。

が、途中まで寄せて来たところで私の魚はフックアウト!

40mほど先で、魚に首を振られた時、フックが外れてしまったようだ。

ルアーの重心が一か所に偏るだけにメタルバイブでのサクラマスを掛けると、バラシ率の高さも実は目立つ。現在の既存製品ではこれだけは完全には避けられない。

 

奥田さんの魚は無事にランディングに至った!

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待望の魚を手に。

さすが、エキスパート! おめでとうございます!!

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その後も1ozメタルバイブでの攻めは続く。

が、並ぶ釣り人の列に私以外にメタルバイブを投げるアングラーは誰一人とていなかった。

そして並ぶ釣り人の皆の多くが使う17g~25gのスプーンを上回る飛距離とスプーン以上の集魚効果が私はどうしてもほしかった。

まずは、ルアーを遠くまで飛ばすこと。

そうすれば、自分が投げた以外のルアーは魚の視界にはまず入らない。

しかも強波動で、濁りのベールを軽く打ち破る特性も、活性が上がったヤル気のある個体だけを選んでバイトさせるには打ってつけ。

だから、そのルアーの存在を察知したサクラマスは必然的に私のルアーに襲う=ヒットするという構図を強く意識していた。

「このルアーを襲える魚だけが襲えばいい。」

正確には、このルアーを襲う“意志”のある魚だけが襲ってくれればいい。

水の中に投じたルアーに期待することは、ただ、それだけのことだ。

そしてまた2度目のヒットが訪れる。

フルスイングしなくてもおよそ70mは飛んでいる。そこから引っ張ること半分だから、沖35m先でのヒット。

レンジはやはり上層で、案の定、高速巻きで「ドス!」という勢いで喰ってきた。

この魚は珍しく上流へ向かって走っていった。途中、背ビレを水面に出し暴れ回ったところで、マスの口からルアーが勢いよく飛ばされルアーが空中に舞った。

残念!本日2尾目のバラシ。

が、この時は「絶対また掛かる!」という意識しかなかったので、本来であれば痛恨のバラシも気にならなかったから本当に不思議。

普通、サクラマスを立て続けにバラせば、悪夢に支配されそうなものだが、この時は無我夢中で何も感じなかった。

 

そして、そろそろ夕方が迫り、陽の光にも陰りが出てきた頃。

これまで使用していた青系の色ではそろそろ水中では暗いだろうと、チャート系カラーにチェンジ。ルアーは変えずにカラーだけを交換したのだ。

その3投目のこと。大遠投先から上層を高速リトリーブしていると、本日3回目となるバイトで手が止まった。というよりも急激な負荷で強制的に止められたのだ。

ドス!という急な重みが乗ると共に穂先は「クックックッ!」とサクラマス特有のスネーキングを伝える。ロッドの反発力により動きを制御されたマスが身をよじるように口元の針を外す挙動がこれだ。

今度こそ、バレないように「追いアワセ」を短く2回入れて、本アワセをサポートする。

その後の引きは、ひどかった。

まるで青物でも掛けたかのごとく激しく引き出されるライン。悲鳴のごとく高音の叫びをあげるドラグ音。私自身、サクラマス相手にかつてこんなにもドラグが奏でる音色を聞かされたことはない。

寄せては走りを繰り返すその様は、まさに魚にとっての死闘と称しても差支えないもので、ひとたび走れば9ftシーバスロッドが魚の突進で“のされてしまう”程の衝撃だった。

だから、相手が急激に引き込んだ時にはフォアグリップとグリップエンドを両手で押えて引きに耐えた。

サクラマスには違いないが、これまで釣ってきたのとは全くとの別物。とてもではないが、片手だけでは魚のパワーを受け止められなかった。

それにしても、いかがなものだろう。シーバスロッドを限界まで曲げてくれるとは何事か!?と思った。

魚の大きさもさることながら、その引きの強さには本当に驚いた。

しばし続いた攻防にも、ようやくの終焉の時が見えてきた。

まるでシイラを彷彿させるかのごとく、水面から全身を出して数回に渡るジャンプを繰り返す相手は大きく、そして太い。

軽く3キロは超えているのは間違いない。

しかも顔つきが……いつも釣る魚らのそれとは違う……。

なんと!鼻が曲がっているのだ。

そう!まさしく「オス」のサクラマスなのだ。

周囲が仰天しつつも見守ってくれる最中、ランディングに向けて一か八かの勝負を掛けた―。

 

重々しい重量感と共に、ネット枠を上回る魚体。

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サクラマスでは自己最高となる3.5キロの重量(JGFA認定ポータブルデジタルばかりにて計測)。

小学生の頃から続く、私のサクラマス人生でも初めて手にしたオスだった。

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全長こそ65センチに留まったが、この北上川でオスの3.5キロに出会えたことは感無量に尽きる。

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オスのサクラマス、3.5キロ(65センチ)。

 

やり遂げた達成感で、身体に張りつめた緊張はその全てが解放されていくのを感じた。

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 この日、3尾ヒットさせたうちの1尾キャッチ。

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今、振り返ればバラした残り2尾も惜しかったのかもしれないが、そのどれもが1ozメタルバイブの上層高速巻き。

ヤル気のある魚だけに襲わせる、“マスの闘争本能に訴えかける”釣り方。

スプーンの釣りでもない。ミノーの釣りでもない。バイブレーションプラグの釣りでもない。

「メタルバイブレーション」での横引きの釣りだ。

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この日に限って重要だったことは下記だ。

リフト&フォールはしない。

ボトム転がしはしない。

ジャークもトゥイッチも入れない。

直線で真っ直ぐな軌道でルアーを引っ張る。

これら絞り込んだ戦略を着実におこなうこと。これが大事だった。

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バイブレーションというカテゴリーに在り来たりな「リフト&フォール」というアクションををあえてしないテクニック。通常のバイブレーションプラグとは全く異なるルアーとして用いる、メタルベイトとしてのメタルバイブならではの使い方がキモだった。

反面、重心が一か所に偏るためバラシの多さも目立つが、それを持ってしてでもフィールドの特徴が合致するのなら、サクラマス釣りにメタルバイブが効くことは確かだ。

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数々のバス用メタルバイブとシーバス用メタルバイブを用いて試行錯誤を続けてきたメタルバイブレーションの釣り方を数年かけて、ようやく自分なりにマスターしたこの日。

サクラマスに有効なメタルバイブは、バス用やシーバス用とも求められる性能や使い方、重心の位置関係やフックシステム、ルアー全体のシェイプもまた違う部分があるということ。

私が愛用しているのは、数あるこのジャンルのルアーの中でもこの日現在までに最も理想に近いとするものだった。

その過程で獲った魚は、これまでのサクラマス人生においても強烈な思い出として記憶に焼き付く魚となってくれた。

 

●海を回遊していた記憶をもう一度、サクラマスに思い出させること。

●上記の他にメロウド(正式名称はイカナゴ。北海道ではオオナゴとも言う)を捕食していた記憶をも思い出させること。

●ルアーの形と動きをメロウドに似せること。

●魚に本来備わっている闘争本能を掻き立てる、強い波動を伴うこと。(魚の本能を刺激すること)

●スプーンやミノーよりも目立つ存在であること。

●ルアーが泳ぐ軌道が蛇行せずに、直線的に真っ直ぐに引けること。

ここまでが、北上の大河に回帰したサクラマスにメタルバイブが有効であることは把握に至った。

もちろん、メタルバイブが威力を最大限に発揮する条件が揃った時にこそ、である。

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雨に打たれ、雪に濡れたこの日。

逆境に打ち勝って獲った希少な出会いを果たせた1日。

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重さや大きさというよりもこの水系では希少なオスを釣り上げられたことが、本当に、本当にうれしかった。

この後の釣行でもメタルバイブレーションは活躍を続けたから、その効果はやはり本物だと実感を深めた。

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その目指す高みは、彼らがやってくる広大な大海原へも夢と共に広がるのであった。

 

■タックルデータ(2013年4月)

●ロッド:シードライバーNSDS-90ML-PW

●リール:ステラ4000

●ライン:シーガーライトタックルフラッシュⅢ1号

●リーダー:シーガーショックリーダープレミアムマックス20lb

●スナップ:カルティバ/クイックスナップ2号

●ルアー:ビッグバッカー1oz

●フック:カルティバST46♯6番

●ジャケット:カルティバ/ゲームジャケット2

●偏光グラス:ZEAL OPTICS/Vanq

●偏光レンズ:TALEXイーズグリーン