桜、花旅。~サクラマスの話~(8)
日中は磯からのロックフィッシュゲームで、アイナメ釣りを楽しんでいた。
ジンクリアな水質で遠浅の地形にも関わらず、チェリーキャンディーシードカラーのパワーホッグ4インチやバルキーパワーホッグ3インチを追う魚影が繁茂するコンブの下から現れる。
磯に立ってワーミング用ベイトタックルを振り回していると、沖合20mほど先をボラの集団のような50~60センチもある茶色い背中の魚が20尾ほどの群れで表層を泳いでいた。
それがその時、慌てて撮った写真。(残念ながら魚は写ってないですが)
空中を舞うテキサスリグがこの様子を物語っている。
最初の一瞬こそ「ボラ?」と思いきや、偏光グラス越しに良く見ると、それはサクラマスの群れだった。
●サクラマスが海にいる時、どんな風に泳いでいるのか。
●何尾くらいの群れでまとまっているのか。
これまで想像の世界を出なかったことが、今、目の前ではっきりと見て取れる。
水の透明度が高い水域であることに加え、高性能偏光グラスを持つ意義がここにある。
海を回遊しつつ最寄りの遡上する川を探して回っている個体群なのだろうか。
いずれにしても背中の色は既に茶色が強く出てきており、海にいるとはいえ沿岸部に接岸してから岸近くをウロウロして遡上待ちの“古いマス”だろう。
こういった魚は捕食本能も次第に薄れてきているのが大半だが、逆にいえば私が普段、宮城県北上川水系で相手にしている魚達はこういった特徴を持っている魚たちでもある。
なので、「なるほど!」このような状態で川に遡上してくるのだな…という見方も出来た。
サクラマスの密度が高い地域に行くことで、見えてくる世界は広がるから釣り人としても得る物は大きい。
手に握るロックフィッシュ用ベイトタックル。その先には3インチのホッグワームのテキサスリグ。このルアーを魚群に投げたところでサクラマスは喰わせられないだろう。
よって、一か八かの期待はせず、むしろ少しでも長く魚を目で追っていたいと静観した。
夕方、身支度を仕切り直す。
ロックフィッシュ狙いから再びサクラマス狙いへ。
どちらも熱心に打ち込んで来た「自分好みの釣り」だから、本当に釣りの1日を満喫している実感がある。
夕方は潮が効いている場所が少なかったが、極力、カレントが効いている「流れの筋」を探しながらポイントを見て回った。
ここで役立つのも高性能な偏光グラスが大きい。例によって、ブラインドサイトしていくのだ。
たいていのポイントは岸寄りにベイトフィッシュの気配はなく、まったりしていた。
が、沖合を海鳥が旋回しているので、おそらく魚は(ベイトフィッシュも、サクラマスも)沖を回遊しているはず。
そして流れの効きが悪いので、強い波動を出すルアーは仮に魚と鉢合わせても遠くから見切られる可能性があると判断。
動きの小さいジグミノーに託すことにした。
ジグミノーの使い方のイメージは、センコーのノーシンカーリグが良い手本になることをぜひ知っておくと便利だ。
バスフィッシングの世界で有名なゲーリーヤマモト社のヤマセンコーのノーシンカーリグを貴方は使ったことがあるだろうか。
あの水平ナチュラルフォールアクションを、海で、ジグミノーを使って演出するのだ。
その際、ルアーの動きを殺さないためにフックの大きさ・重量はとても大事な要素。接続するフック一つでルアーアクションが変わってしまうことがあるから注意だ。
そしてまた魚は反応した。
遠投先、着水してから10回ほど巻いたところで「ククッ!」という鋭く短いショートバイトを乗せたものの、フッキングがどことなくあやしい感じでファイトが始まったかと思えば、とたんにバレてしまった。
アワセを入れた瞬間から完全に針が乗っていなかったと分かるものだから、キャッチすることは困難な魚だろう。ただ、相手がサクラマスには違いない。
サクラマス釣りにおいて、「バラしたその日はまた掛かる」という幾多もの経験があるので、「次にまたドカン!と来るぞ」と自分自身に言い聞かせる。
その15分後くらいのこと。
高速巻きをしていたジグミノーを再び魚が襲った。
激しく喰らいついた相手はそのまま横方向に猛スピードで走る。これがショアからの海サクラマスゲームの醍醐味だ。
魚を手前に寄せた時、ラインに角度がつくと針がポロッと外れてバレやすいので、ラインテンションを維持した状態で寄せてくるのがスムーズにランディングを決められる方法。
本日3回目の本命ヒットのうち、2尾目のサクラマスは56センチだった。
背中の色が「海サクラマス」らしい発色をしている。
いつの時代も、狙って獲ったサクラマスは本当にうれしい。
サクラマスが捕食しているであろうオオナゴに対するマッチ・ザ・ベイトという概念において、今この瞬間のルアーセレクトがこれだった。
暖かい風から冷たい風に切り替わろうとする夕刻迫る時間の至福。
その後は幸運にも再びアイナメの釣果を伴い、釣りの時間は終焉を迎えた。
アイナメのヒットルアーもジグミノー。上層の高速巻きで「ゴン!」と一撃でバイトしてきた。
典型的なボトムからの突き上げ系バイトです。
春4月から始まったサクラマスを追う旅。
自分の場合にはロケの合間、合間しか出来ない時間的制約の影響は大きかったが、それでも2ヵ月の間、許される限りは全力でこの魚と向き合うと決めていた。
そんな6月のこの地で、本日を持ってその一連の旅は終着を迎えたのだった。
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下記からは【まとめの文】となるが、もし「サクラマスをまだ釣ったことのない方」や「釣れずに悩んでいる方」がいれば、私のつたない小話ではあるがもう少しおつきあい頂ければ幸いである。
私がサクラマス釣りを始めたのは、振り返ること小学校5、6年生の頃。
そして初めてサクラマスを釣ったのが高校を卒業し大学へ入学する春休みのことだった。
私めも当時はまだ18歳。
つまり、それまでの7年間は「全く釣れなかった経験」をしてきた。
バラシどころか、本命のものと思えるアタリすら一度たりとも感じたこともなかった。
何かと多感な青春時代において、“試練と忍耐”とも呼ばれたこの釣りが苦痛で嫌になったこともある。
でも、人より釣れない時間が長かったことが、今では良かったのではないか、と思っている。
あまりの釣れなさに挫折を通り越して、サクラマス釣りに対して嫌気すら覚えた高校時代。
早春の朝に自転車に乗って釣り竿と磯ダモを担いで釣り場へ通うものの、ごく稀に魚の感触かと思えば……釣れるのは決まってマルタウグイと二ゴイのみ。
釣れない期間があまりにも長かったから、初めてサクラマスを釣り上げた時には「この魚が本当にサクラマスなのか?」と信じられず、海の養殖棚から脱走して偶然、川に入ってきた養殖のギンザケではないのか?と自分自身さえ疑ってしまったほど。
今では、なんの、なんの、笑い話に過ぎないのだが(笑)。
でも、そんな時代を乗り越えて自分なりにこの魚とこの釣りを解釈出来たからこそ、サクラマス釣りはロックフィッシュゲームと共に大好きな釣りへと変わっていった。
そしてこのサクラマスがキッカケで、カラフトマスや海アメマス、イトウ、オショロコマを釣りたいと思い、自らの意志で北のフィールドへも辿りついた。
それまでの釣れない期間が嘘のように最初のサクラマスを手にした年以来、毎年、この魚を手に抱き続けてきた。
「釣れない経験」はやがて「釣れるための経験」となることを私は身を持って知ることが出来たのも、このサクラマスのおかげだと思っている。
それだけにこの13年間サクラマスを釣り続けて想うことは、「釣り人としてこの魚に出会えたことは本当に恵まれたことだったなぁ」ということ。
決して一筋縄にはいかない魚ではあるが、でも、熱くなれる。
だからこそ、釣り人はそこに夢を馳せ、情熱を注ぎ込めるのではないだろうか。
釣れずにうなだれる時も、バラした悔しさや苛立ちもまた釣りのエッセンス。
「釣り」という行為は漁ではないし、機械的な作業でもない。
魚との出会いに想いを馳せる、釣り人の【信念】(魚との向き合い方の部分)が大切なんだ。
私は、そんなこの国の春の釣りが好きだ。
「桜、花旅。~サクラマスの話~」の綴りは、今回でおしまい。
もし釣れずに悩んでいるとしても、どうか諦めないでほしい。
真っ直ぐな志がある限り、いつかその瞬間はきっと訪れるはず。
貴方にも。今年も、どこかで咲き誇る幸運な釣り人となってほしいのだ。
グリーン&ブルー。
山の緑に海の青。
サクラマスの世界は、今日もまた大きく広がっている。
そこに地域や淡水・海水の垣根は存在しない。
皆さんもぜひ、サクラマスの釣りへ。
ニッポンの春。
桜、花旅へ、ようこそ!
■タックルデータ(2013年6月)
●ロッド:サーフスレイヤーSSLS-96MH-F
●リール:ステラ4000
●ライン:シーガーライトタックルフラッシュⅢ1号
●リーダー:シーガーショックリーダープレミアムマックス20lb
●スナップ:カルティバクイックスナップ2号
●ルアー:KJ-11
●フック:オーナーばり/OHフカセ15号をベースにしたシングルフック
●タックルベスト:カルティバゲームフローティングベスト3
●偏光グラス:ZEAL OPTICS Vanq
●偏光レンズ:TALEXアクションコパー
2014年4月28日 | カテゴリー:釣行記