約束の言葉。
駿河湾の背後にそびえる名峰・富士の頂(いただき)。
8月上旬の、伊豆半島(静岡県)での釣行からの帰り道。
釣り人の皆さんには、釣り雑誌「SALTY!」誌の人気連載「フィールドからON AIR」や釣りビジョンが誇るスタジオ生放送番組「五畳半の狼」の司会でもおなじみの大御所、声優の菅原正志さんが運転する車の助手席に乗せていただいていた私は、帰りの新幹線が発着するJR東京駅まで、伊豆半島から送っていただいていた。
伊豆半島の西岸・通称「西伊豆」から東京駅までは途中、高速道路を経由しても、おおよそ3時間30分程の道のり。
高速道路に乗ればあいにく、その日は道路が混んでいて、これは思いのほかもっと時間がかかりそうだ。
15時前に途中のサービスエリアに立ち寄り、遅い昼食を2人で取る。
結局のところ都内周辺に差し掛かると渋滞は更に混雑を増し、東京駅に到着したのは夜19時過ぎになった―。
車をフェリーに積み込んで行った新潟県佐渡島での雑誌ロケから一度帰って、釣り道具と荷物を詰め直して急行した静岡県安良里(あらり)。
移動を含めた3日間。
安良里(あらり)に2泊した翌日はさすがに次の仕事を控えていることもあり、私は駆け込むようにして東京駅は東北新幹線のホームへと急いだ。
菅原さんとご一緒した2泊3日のアカハタ狙いの静岡県ロックフィッシュゲーム。
アカハタは「魚類」としてはキジハタよりも小型に属するハタながら、その鮮やかな赤色はキジハタ同様の存在感を示す大本命のロックフィッシュ。
アカハタは、先に大ブレイクしたキジハタや同じくこれからが楽しみなオオモンハタなどと共に「ロックフィッシュゲーム」として今後、必ずや新しい道が開かれ、確立される魚だ。
西や南のハタは、東や北にルーツのあるアイナメ、ソイ、カジカと遜色ない高いゲーム性を誇り、ましてや一筋縄ではいかないターゲットだけに1尾1尾の出会いを大切にしていきたいロックフィッシュ。
アジとかサバとか群れで回遊する魚とは異なり、そんなに何匹もたくさん大釣りできるばかりではないロックフィッシュゲームというカテゴリーにあって、“釣れたら最高でしょ!”の1尾の価値が値千金である魅惑の魚たちこそがこの釣りの主人公たちだ。
この釣行でも良き釣果に恵まれ、アカハタはもちろん、更にはカサゴやオニカサゴ、シイラまでその釣果に加わった夏のいい思い出だ。
恐縮ながら菅原さんのご厚意に甘えてしまった今釣行。
本当であれば、いくら菅原さんの車であっても運転は私も代わってやるべきであるし、何よりもガソリン代もお出しするのが礼儀だ。
更には昼食まで菅原さんにごちそうになったあげく、別れの東京駅ではご丁寧にも手土産まで頂戴してしまったのである。
申し訳ない……。
恐縮の極み……。
このご恩、どうお返ししていいものか……私の頭の中にはそんな言葉しか出てこなかった。
※
帰りの道中、バックミラー越しに名峰・富士山が映るあたりだった。
隣の運転席でハンドルを握る、菅原さんに思いきって聞いてみた。
「なぜ、そんなにもご親切にしてくださるのですか?」と―。
※
東日本大震災の後も菅原さんは私宛に直筆の丁寧な綴りのお手紙を何枚も何枚も送って下さり、これまでずっと励まし勇気付けてくれた。
それは今でも私の心の支えになっている。
普通、それだけでも十二分にありがたい話なのに、芸能界というちょっと特殊で多忙極まりない世界に置く身にも関わらず、ご自身の仕事をお休みまで取ってまでアカハタ狙いのロックフィッシュゲームを一緒に楽しむ、という時間まで作って下さったのである。
※
帰りの道中、高速道路のサービスエリアでの食事後、こればかりはさすがに…と私が会計を2人分一緒にまとめたく私が財布を出したとたん、「文紀君、それはいいよ。君のその気持ちだけでいい。その財布は、しまいなさい。」と菅原さんが言った。
あまりの恐縮さにおそれをなして尋ねたのが、私が述べた先の言葉だったのだ。
「それはあまりにも申しわけないです。せめて、食事代だけでも私に出させて下さい。」と私は続けて切り出した。
それに対し、菅原さんから返ってきた言葉はこうだった。
「そうかい? ん~じゃぁ……文紀君がこのことをね、“申しわけない”と思うのなら、俺とひとつ約束をしてくれないかな?」と―。
なんだろう…。
「実はね、私も君ぐらいの年齢の時に先輩から、同じようにしてもらったことがあるんだ。それがうれしくってね。今でもいい思い出なんだよ。ほら!今でこそ、自分は声の仕事(つまり声優業)をしているけれど、若い時には都内に自宅を構えることも、車を持つことも想像出来なかったなぁ~。」
その昔、菅原さんが尊敬する先輩によくしてもらったことが凄くうれしかったのだそうです。そのことは今も菅原さんの胸の中にある大切にしている思い出。
そして「今はその先輩が自分にしてくれたことを今度は自分が年下の人間にしてあげられる年齢になったのだよ。」と続けておっしゃいました。
「だからさ、文紀君もね。私の年齢くらいになった時でいいからさ。コイツ、本当にいい奴だよなぁ~って自分が思う若い子がいたらさ、ぜひその子に今回私がやったようなことを同じくやってあげてほしいんだよ。きっと、その子は喜ぶだろう。それが私との“男と男の約束”だ。いいかい?」
思わず、胸がグッと熱くなる言葉でした。
ましてや、あのダンディー・ボイスの菅原さんが言うのですから尚更です。
なんか、うれしくて…ですね…。
思わず、目元が危うく濡れそうになるのを私はグッと我慢するのが大変だったのです。
言われたほうはビックリだけれども、正直、うれしかったですね。
自分が仮に菅原さんの年齢に達した時、果たしてそこまで寛大な男になれているかは分からない。
だけれども、やはりそこを目指していきたいな、とは強く思うわけです。
やっぱり男としてカッコイイ方ですよ、菅原さんは。
改めて、本当にかっこいい人だなぁ~と心底思うのです。
菅原さんを慕う人の多くは、菅原さんを「アニキ」と呼びます。
どこまでも「男」として大人であり、洗練され成熟の域に達していらっしゃる。
声優・演劇指導・俳優・イラストレーターとしても多彩な才能を有し、魅力溢れる方ですから、それもまたうなずけます。
私が言うのも恐縮の極みながら、釣りもプロ同然です。
中学生の頃から釣り雑誌で菅原さんの記事を拝見していましたから、釣りの業界でも私にとっては大先輩なのです。
菅原さんと私は年齢差で言えば「20歳」違います。
20歳といえば、一人の人間が成人式を迎える年齢ですよね。
現30+2そこそこの私が、かの菅原さんを「アニキ!」と呼ぶにはいくら敬意を表したところでまだまだ恐れ多いので(笑)、私は未だに「菅原さん!」と呼ぶことの方が多いのですが、やはり菅原さんはアニキなんですよね。
そう、頼れるアニキなんです。
釣り人としても業界大先輩であり、人生の大先輩でもある菅原正志さん。
そんな尊敬してやまない偉大なる大先輩とご一緒できることは釣り師としてのみならず、一人の人間として、一人の男としてもまた学ぶことがあまりにも多い。
年齢も違う私を「友人」と称してくれるのもまた菅原さんの心の尊大さとお人柄に尽きる。
まだまだ人間的にも未熟者である私が同じ船に乗り、隣に立ってロッドを振る。
ターゲットはロックフィッシュだ!
アカハタだ!!
テキサスリグが、すっげぇ~おもしろいんだ、これが!!
今はクランクシンカー1ozだよ。
赤のパワーホッグ4インチ。いいね!釣れる!
ダブルウェーブ?ごっそり持ってるよ。アイナメ爆釣でしょう!
そんな会話が交わされる海の上。
かの声優と根魚釣り師が西伊豆の海で、はしゃいでいるわけです(笑)。
おまけに菅原さんのタックルまでお借りしちゃって、1メートルオーバーを含むシイラまで釣らせていただいた。
そんな刺激的な時間を過ごせるのは本当に至福の時間(とき)だ。
私にとって、約束の色が「紫色」ならば―。
この誓いは男同士の約束。
つまりは「約束の言葉」である。
20年後の自分に今は想像はつかないけれども……少しでもその人柄に近づけるよう邁進したいと思う西伊豆釣行でもありました。
こんな綴りの乱れた長文ブログをご本人に見られたら「ガッ!ハッハッハッ~!!」と大声で笑われそうで仕方ないものであるが、今いちど偉大なる大先輩に改めて感謝を申し上げつつ、そんなちょっと渋い(?)、ダンディーな大人になれるよう、これからも精進したいものです。
2014年12月29日 | カテゴリー:その他