月傘~月に架かる虹色の輪っか~
時は2012年8月―。
発売を翌月に控えた「ロックフィッシュのABC+DVD」は私の力不足もあり、作業進行がだいぶ遅れてしまっていました。
今年の5月~7月は本当に多忙極まりなく、なかなか家にさえ帰れない出張続きの日々、溜りに溜まった業務をひとしきりこなすためには必然的に睡眠時間を削らざるを得ない日々が続いていました。この表現は好きではありませんが、まさに疲労困憊の状態でした。仕事ゆえに仕方のないことではありますが、本来なら7月末までには作品の半分が出来上がっていることが望ましい制作進行スケジュールだったものの、「本」の制作はDVD以上に大幅に遅延しており、実際は1/3も出来ていなかったと思います。
いつも寛大な対応をして下さる「つり人社」さんからでさえ、さすがにそろそろ規定のページまで原稿を仕上げていただかないと発売予定日をずらさなくてはなりませんよ、と催促(失礼!)してくる始末。編集長はもとより、デザイナーさんやイラストレーターさんなど制作スタッフの皆にも多大な迷惑をかけてしまいます。
ちょっと抱え込むことが多過ぎて、一時ほんとに頭の中がパンクしそうな状態だったのです。
その証拠に今年8月のブログをご覧ください。
更新はわずか1つ。ブログに手をつける時間さえ余裕がなかったその実態がそのまま残っています。
9月。下旬の26日にリリース日が迫り、制作の現場は多忙のピークを迎えていました。
昨年に出版させていただきました「ロックフィッシュゲームがある日突然上手くなる」は全144ページから成りますが、それに対し今回の「ロックフィッシュのABC+DVD」の本はわずか50ページ。ページ数だけで言えば、かなり少ないボリュームです。それだけに最初は「今回は楽かも!」という気持ちでご依頼をお受けしたのですが、いざ執筆に取り掛かると…これが大変。
前者はあくまでヒント集(つまり参考書)であり、作風はある程度、自分の“自由”が利きました。しかし今回のABCの方は初心者向けのテキスト(教科書)ということもあり、これからロックフィッシュの釣りを始めたい入門者の方、ロックフィッシュの釣りの初心者の方にとってなによりの活きた教材となるべき本ということで、こちらの方が執筆に際し、多くの労力を伴いました。使う写真(カット)、キャプション(CAP)、ラフ(イラスト)もどれを使おうかと素材厳選を重ねていきました。
釣りは専門的要素が多いので、初心者はいつか必ずその壁にブチ当たります。世の中、まだ経験の浅い人に物事をレクチャーすることほど難しいことはないのです。
読者層と自分との間に存在する双方のギャップをいかにして埋めるか―。いかに相手の立場になって親切に親身になって解説・説明出来るかが真の意味で問われるからです。
発売予定日が迫る中、思い通りに制作が進まない苦悩の日々に、誤解を恐れずに正直に申し上げるならば内心、過度のイライラやストレスも募り、相当に焦っていた自分がいました。
そんな時、友人から一通のメールが届きました。
内容には「夜、月の周りを見てみるように。虹色の“輪っか”が出来ている。」ということが書いてありました。
最初は意味の真意がよく分かりませんでしたが、その時はあいにくの曇り空で何も見えません。真っ暗なわけです。
その数日後、文章の表現に活き詰まり、ベランダに出て、少し“ボ~”としながら空を眺めたんです。
そしたら、ほらっ! 月に虹色の“輪っか”が架かっているじゃありませんか!!
童心に戻ったかのようにとても感動しました。もしかしたら、この“虹色の輪っか”はいつも、ずっと光っていたのかもしれない。けれど、私はそこまで月に目がいっていなかった。いや、月を見ることもしていなかったと思います。
月の周りが虹色に光って見えることを、私に言いたかったのだ、とその時に真意を理解しました。
つまりは、「当たり前のことだけど、当たり前のことだからこそ物事を良く見ることの大切さ」を忙しさのあまり焦って空回りしている私にきっと伝えてくれたのだろうと思います。
北海道に住んでいる友人ですので、“海”の向こうからその月を眺めている。
私は宮城県から月を眺めている。
一見、周りにある景色は違っても、「肝心の“焦点”」はまったく同じものを見ていたわけなんですね。
これはその時に撮った写真です。
なにぶん遠いのでこの写真では分かりづらいかもしれませんが(ごめんなさいね)、確かに月の周りに虹色の“輪っか”が光輝いていました。
要領を得た私はそれから最後の最後まで尽力しました。作業の手が進みました。
発売日ギリギリまでかかりましたが、おかげさまで完成した作品がこれなのです。
「佐藤文紀 ロックフィッシュのABC+DVD」(つり人社) 今現在・私の考えうる根魚釣りのハウツー要素が凝縮されている一冊です。そして同封されているDVDも奇遇にも5月の北海道でロケをおこなったものでした。
釣りをしない友人ですが、いざ製本されてきた第一号(見本本といいます)は私の手元に置くのではなく、「月を見ろ」と言ってきた良きアドバイザーに敬意を込めて差し上げました。釣りをするわけではないので内容を見ても難しいと思うし、特に得るものもないと思います(笑)。でも、誠心誠意、真心を込めた1冊の感謝の証は私から直接、送ることにしました。
北海道には幸いにもたくさんの友人や仲間がいます。いつも思うのですが、道産子たちのバイタリティーには凄いものがある。いつも感心させられます。
かつて、色々な時代背景はあったにせよ、自分たちの世界を自分たちの力で開拓していった人間達の末裔に今も引き継がれているスピリット。
そんな粋な心や純粋さにはいつも深い感銘を受けています。
年末に際し、今年を振り返る中でこの作品はとても大きなものとなりました。大切な作品です。
撮影にご協力頂きました全ての皆様、そしてこの本を手にとって下さった全ての皆様、そしてこのような機会を頂戴致しました出版社様に今一度、深く御礼を申し上げます。
皆さん。
今年の釣り納めは無事に終わりましたか?
来年もいい釣り、して下さいね!
2012年12月29日 | カテゴリー:その他