桜、花旅。~サクラマスの話~(5)
岩手県大船渡市・越喜来湾(読み:おきらいわん)に巡ってきた春。
今回は東北・三陸リアス式海岸における「海サクラマス」のお話です。
元々、日本国内で海を回遊している段階でのサクラマス、つまり「海サクラマス」を専門的に狙う釣りといえば、北海道と青森県がその大きなルーツを占める。
道内の自然環境が独自に生み出したショアからの海アメマス釣りは、やがてショアからの海サクラマス釣りへも波及し、近年では北海道を象徴する釣りの1ジャンルにまで成長・発展を遂げるようになった。
北海道の道南では海サクラマスを狙うに適するフィールドが多く、名だたる人気のエリアが数多く存在する。
その一方でオフショアで狙うバケの釣り(マスしゃくり釣り)やバーチカルジギングの釣りの人気も健在だ。日本海側の積丹半島や太平洋側の白老・苫小牧など札幌圏内からもほど近い道央でも、こういった釣りが楽しめるとあって話題は尽きなかった。
一方、青森県でもマスナタの釣りやバーチカルジギングの釣り、つまりオフショアからの海サクラマス釣りは古くから行われてきた。特に同県の下北半島はこの釣りのメッカとして名を馳せるところ。
こういった釣りを三陸沿岸の海でも出来ないものか…という考えは、サクラマスを追う者としては“ごく普通”の成り行きだった。
とはいえ、昔からサクラマスが釣れる河川の河口や隣接する海に行って誰一人とていないフィールドでルアーを投げ続けても結果は一度たりとも伴わず、ならば沖に行けばどうかと思い、数年前には4月~5月に岩手県重茂半島沖で海サクラマス狙いのために遊漁船をチャーターしてバーチカルジギングを何度か集中して試みるも海サクラマスどころか、魚1尾たりとも釣れず…という散々たる釣果に、船釣りとは思えないほどのあまりの確率の低さに、やはり狙って釣ることは無理なのか…と諦めの心さえ抱いたものだった。
魚が釣れない釣りは第一にお客が嫌がる(耐えられない)ことが多いので、船宿も客商売としては成り立ちにくい。
そのため遊漁船とて、そこに専門性を持たせてはやりたがらないのが普通だ。
それでも凄いのは、三陸の海の男たちは諦めないでコツコツをその釣りを開拓し軌道に乗せる努力を続けてきた。
今回お世話になった崎浜港「広進丸」川畑船長もまたその一人である。
その努力あって、このところ東北の太平洋側・三陸沿岸の海域でも「狙って獲れる海サクラマスの釣り」が少しずつ認知・浸透してくるように至った。
現在、三陸の海でその中心を担うのが岩手県大船渡市の越喜来湾ということになろう。
冷たいヤマセの影響により、5月中旬とは思えない鳥肌が立つほど海の上は寒い。
防寒着が手放せない釣行日だった。
ご当地において、海サクラマスのまとまった群れは例年2月~3月頃から回遊が見られるとのことだが、4月20日を過ぎる頃、この海域にはまだ海を回遊している最中のカラフトマスの群れも同時に来遊してくる。
日本国内では「カラフトマス=北海道の魚」というイメージが本州在住の方であれば強いかもしれないが、実際に三陸河川にも少ないながらも遡上が確認されていること、更に春先の三陸の海では定置網にまとまって入ることもある。
そのような意味では東北でも遭遇の機会は少ないものの、カラフトマスとの接点はあるのだ。
そのような観点から意外に思われるかもしれないが、周辺海域は昔も今も「サケ科の降海魚」の回遊地であったわけだ。
同地でママス(「真マス」の意味=正式名称でのサクラマス)をメタルジグによるバーチカルジギングで狙って釣れるまでになった昨今では、瞬く間に釣り人を虜にした。
もちろん、海でも川でもサクラマスはサクラマス。
相手が相手だけに、「釣りに行けば100%釣れる」という甘い期待は最初から“なし”としておこう。
それでも、群れに遭遇した時には連発して釣れることもあるわけだから、その響きは魅力的だ。
岩手県大船渡市に海サクラマス狙い行ったこの日(2013年5月)。
出船前に船長が乗客全員に向けて懇切に釣り方やアドバイスを下さる。
1尾との遭遇がとても貴重な出会いとなるサクラマス釣り。こういった直伝の助言はとてもありがたい。
本州ではサクラマスは通常、川で狙うのが普通だから逆に海で釣ることには釣り人も不慣れな点が多い。
海にいるサクラマスは活発にエサを追っている状態の個体。
川を遡上する前の段階、つまり海にいる時のマスの行動を細かく教えてくれるから、とても勉強になる。
港から10分程でポイントへ到着。
水深にして50~60mだが、海サクラマスやカラフトマスの回遊レンジは上から15m~20m付近で掛かってくることが多いからそのレンジを集中的に攻めるよう船内アナウンスが響き、釣りはスタート。
この時、ジグの重さは40g~60gを使用。
海にいる段階のサクラマスは川(真水)で釣れるものとはことなり、魚の口が著しく柔らかく“もろい”ので、口切れによるバラシが多発しやすい。そのためジギングではあるが、ワラサやブリを狙うような頑丈なタックルは必要としない。
柔らかめの、竿が魚の引きに追従するように柔軟に“しなる”テーパーが向いているとのことでシューティンウェイSWS-702L“スイミントレーサー”を使った。
実際にこの竿で、釣り仲間は2013年度4月~5月は海サクラマスとカラフトマスをジギングで複数尾キャッチしており、この竿は向いているよ、と教えてくれたのだ。
魚群探知機にはメロウドとカタクチイワシの反応がびっしりと出ているとのことで、ジグを落とすとすかさずフォール中にラインの放出が止まった。
掛かってきたのは小型のマダラ。
水深30mでのヒット。
マダラゆえに小型という表現と使ったが、これがアイナメやソイ、ハタの釣りで考えれば40センチ~60センチのこれら根魚が1投ごとにロックフィッシュ用スピニングタックルで入れ食いで釣れるのだから、相当な引き味を楽しめる。
ヒットレンジが浅いので、じわりじわりドラグが作動しながらマダラの強烈な引き込みを堪能する。
この海域のマダラはベイトフィッシュを追って中層にまで完全に浮き上がった、いわば「サスペンド状態」で大群でいる。
そこからは1投1尾でマダラのオンパレード。無限とも思える程の入れ食い状態で掛かってくる。
避けようにも避けられないほどのタラの猛攻が続く。
あげくの果てにはマダラの活性は益々高まるばかりで、船内から一斉に投下されるジグの動きに反応してか、マダラの群れ全体のレンジが更に浮上してきている。
上の写真の頭部をアップ。
マダラもよく観察すると、先細りした口先に鋭い歯と顔つき、独特の色柄模様が存在感を放つ、かっこいい魚であると思う。
最終的には水深60mにおける15mレンジの上棚でヒットしてくるまでになった。
さすがに水深15mという超浅棚でのマダラの入れ食いは初めて体験するケースだった。
50センチ前後の根魚をワームで繊細に釣るために開発したシューティンウェイのスピニングモデル・SWS-702L “スイミントレーサー”。
本来の用途とは異なるが、タックルシステムと水深さえ許せば、中小型であればマダラ相手にも負けないブランクのトルクを発揮する。
荒食いモードに入ったマダラは、1つのメタルジグに針が前後についていれば、2尾のマダラが同時にヒットすることも珍しくはない状態へ突入していった。
とにかく数が釣れ続けるが、魚を持ち帰る意志がないことと、それにこれを全部キープするとなると100リッターのクーラーボックスでさえ短時間ですぐに満タンになってしまう。
なので、お土産にキープしたい同船者の分を手早く手伝った後は速やかにリリースしていく。
ヒットするレンジが浅いのでマダラとはいえ、健全な状態でのリリースが可能なのだ。
マダラの猛攻に遭遇しながらも、狙いは海サクラマスである。
カラフトマスでもいい。
とにかく、「マス」に辿りつく方法を模索し続けた。
隣席では学生時代の同級生S君が竿を握る。バスアングラーの彼はオールド系トップウォーター用ベイトタックルをジギングに代用していた。グラス素材のロッドなので魚の乗りも良いはず。
その時、ちょうど私が貸したルアーにチェンジしようとしていた。
カルティバ/撃投ジグエアロ60gのイワシカラー。
誰が使っても動かしやすいジグなので、入門者も扱いやすいのが特徴。
フックは同じくカルティバ/サクラマススペシャル(シングルフック61)で自作したループ付きシングルフックを上下2本ずつセットするスタイル。
メタルジグを付け替えて少しすると「来た!」の声が響く。
ヒットレンジは水深15mだという。一瞬、またマダラなのでは…?と思ったものの彼のロッドティップを見ると、重々しいマダラの重量感とは異なる、クンクンクンと小刻みに揺れるマス特有の首振り振動が目に入った!
「それマスだよ!!バラさないように落ち着いてファイトして!」と、満月のように反るロッドを抱えながら応戦している本人よりも、なぜかエキサイトしてしまう私。
S君は人生2尾目となるサクラマスであろう、独特の引きに興奮しつつも奮闘を続ける。
その一部始終を隣で見ていた私も、今もあの衝撃は鮮明に焼き付いている。
水面近くまで銀色の影が浮上してきた時、普段よく見かけるサクラマスよりも一回り以上に魚が大きく見えた。
目の錯覚なのか…「もしかしてサケ?」と見間違えてしまうほど、その魚は別格に大きかったのだ。
水面で結実したランディング。
船上にバタン!バタン!と激しく打つその白銀の魚体に船内から一斉に歓喜と祝福の声が上がった。
なんと!!
全長69センチ、重量5.5キロもある巨大な海サクラマスだった!!
ヒットルアーは先述したカルティバ/撃投ジグエアロ60gのイワシカラーだ。
さすがに5キロ超え、5.5キロのサクラマスを見たのは私も初めて。
物凄いド迫力。重量もそうだが、69センチという大きさも素晴らしい。
私が「釣り」で釣り上げられたサクラマスの最重量級であろう魚の話を聞いたのは2012年の北海道積丹半島で釣り上げられた6キロというのが最大だったかと記憶している。
その後も同地で4キロ台が数匹という声までは耳にしたのだが、6キロというサイズは異例中の異例の特大サイズであり、それは北海道という、日本屈指のトラウト王国たるフィールドパワーがあってのことだろうと思っていた。
本州に至っては、限界でも4キロ台。それだって「本州におけるサクラマスの4キロ超え」は、どれだけシーズン中に魚数を掛けようが、容易に到達するのは困難なのが現実だろう。
それが今、目の前にそれを2キロも上回る「5.5キロ」のサクラマスが横たわっているのだから、驚きものである。
この魚の元の正体は渓流に住まうヤマメ。そのことを忘れさせる大魚へと成長を促す「海」の存在はやはり偉大だ。
幅も凄いですよね。まさに「お見事!」としか表現が浮かばない惚れ惚れする魚体。
こんなにも大きなサクラマスが、本州のどこかの川にも遡上していくのか…と考えると、釣りで獲れる魚の割合がいかに少ないか、率の低さを改めて考えさせられるのもまた現実であるが、人の知らないところで受け継がれる自然のパワーというか、驚異にはまだまだ人知の及ばぬ領域が残されていることを改めて実感した。
釣った本人は、まさに脱帽しているようだった。
うれしさを通り越して、「驚愕」に近い状態だろう。
これが仮に彼にとっての「一生もの」のサクラマスになったとしても、誰がどう見ても立派な魚に違いはない。
“海マス”の証。サケ・マスでは特にお馴染みの寄生虫・シーライスがついていた正真正銘、「釣り」で釣った三陸の海サクラだ。
この後もマダラの入れ食いは最後まで続いたが、船中マスのヒットはなし。
この日乗船していた8人に対し、海サクラマスが掛かったのは1人だけ。それもこの特大の1尾のみにマスの釣果は終始した。
つまり私を含め、残り7人に関してはサクラマスにしてもカラフトマスにしてもノーヒットということになる。
この釣果をどう受け取るかで、人それぞれ認識はまた変わってくるだろう。
川で釣るも海で釣るも、サクラマスは釣り人にとって「憧れの魚」であり続けるところは変わりない事実。
だからこそ、今も夢中になって追っかけられる。
釣りをしない人から見たら、大の大人が1尾の魚を釣るまでの過程にこんなにも四苦八苦する様はその行動や言動すら理解しがたいに違いない。
単純に考えて、結果だけを求めるのであれば「釣り」という行為は社会活動、人間活動としては割に合わない。
でも、そこに夢があって情熱を注ぐに値する何かがあるからこそ、私達は今日も川や海に向き合っている。
私が目指している究極の釣りは、別に数をたくさん釣りたいのではない。サイズを狙いたいのではない。
特定のタックルやルアーで釣りたいものでもない。
釣り人としての人生に残る1尾が狙って獲れたのなら、それが「うれしさ」や「喜び」なのだ。
そのことを表現しやすい一つのジャンルが、このサクラマス釣りと言えよう。
世の中にはたくさんの釣りジャンルが存在する中、そんな釣りがこのご時世において残されていてもいい。
貴方にとってのサクラマス。
私にとってのサクラマス。
釣り場や釣り方は違っても、その価値は己の心の中で輝く。
三陸の海で釣り上げられたひと際、大きなサクラマスを目にして、これからも夢を馳せてみたいと思った貴重な釣行だった。
S君、本当におめでとう!
誇らしい、素晴らしい魚でした。
桜、花旅。
宮城県・岩手県と続いたサクラマスを追う旅の舞台は、やがて北海道へとたどり着く。
■タックルデータ(2013年5月)
●ロッド:シューティンウェイSWS-702Lスイミントレーサー
●リール:ステラ4000
●ライン:シーガーライトタックルフラッシュⅢ1号
●リーダー:シーガーショックリーダープレミアムマックス25lb
●フック:オーナーばり/OH丸せいご22号・OHフカセ17号、カルティバ/サクラマススペシャル(シングルフック61)1/0・3/0をベースにした自作シングルフック。ループ部の組糸にオーナーばり/ザイト・パワーフレックス50lb、根巻き糸にはオーナーばり/テクノーラ根巻糸を使用。
●ルアー:カルティバ/撃投ジグエアロ40g、60g
撃投ジグレベル40g、60g
●偏光グラス:ZEAL OPTICS Vanq
●偏光レンズ:TALEXイーズグリーン
★岩手県大船渡市越喜来湾 船宿<崎浜地区>
■広進丸(川畑船長 )【受付番号090-5836-7992・0192-44-2961】
2014年4月20日 | カテゴリー:釣行記