ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

被災地で造船された大海に向かう小舟

宮城県の石巻市という街は古くから水産基地としての役割を大きく果たしてきました。

なにぶん、東北の田舎町につき東京や大阪、名古屋、札幌のような都会的な景観を有する場所ではありませんが、それでも東北で最大の流域面積を誇る北上川という川と海(太平洋)に恵まれ、近くには世界三大漁場の一つとも称される三陸金華山沖をひかえ、水産業では重要な拠点を担ってきた街がこの場所です。

 

ご存じの通り、先の東日本大震災の大津波では被災規模最多と思われる津波犠牲者を出したのもこの石巻で、街も人も震災の「前」と「後」では人の人生を取り巻くものが大きく変わってしまっています。

 

ここでは個人的な感情を羅列するものではありませんが、このような場所にあって、その市内沿岸部の復旧・復興は思いのほか進んでいないのは私の目からみても、確かにそう思えるのです。

 

これから、この街はどうなっていくのだろうか…、と―。

 

そんな被災著しかったこの街の今は、被害を受けた建物は取り壊され、広大な更地になっているところが目立ちます。

かつては住宅や商店があり、人が暮らしていた場所の現状がそうなっているのです。

 

東日本大震災についてはあれだけメディアで取り上げられていますので、頭の中でのイメージとしては分かっていても、実際にこの地を訪れた人でなければ、想像しがたい部分もあるかもしれません。

 

私事で恐縮ながら、身の周りでも3年半も過ぎた今も行方が分からないままになっている人達がいることもあり、遺体として発見された人のみならず、今もあの日を境に消息を絶った人達を思い出すと、やはり少なからずその心は悲しいものです。

 

海の恩恵を受けてきたと同時に海により沢山の人が亡くなっている現状が、己の心に深く、複雑に交錯します。

それでも、小さな一歩は人の数だけあるのかもしれません。

 

ここ石巻市において、被災地の敷地を利用しアメリカで設計されたプレジャーボートの造船を行うというプロジェクトが行われており、その第1号となる18フィート船がこの度完成し、その進水式と祝典が一昨日、石巻グランドホテルにて催されました。

進水祝賀の式典

Hobby World Marine 石巻工場・認証番号取得祝賀

第1号艇(18フィート)完成・進水の祝典。

 

恐縮にも、「海」と「釣り」にゆかりのある、石巻出身のプロアングラーとして私も来賓席に招いていただきました。

会場には国内外のVIP、エグゼクティブな方々が参列され、それだけでも驚いたのに(自分には場違いではないのかと…)、一番の衝撃は……私の席が一番前のテーブルだったこと、更に来賓者の紹介まであり、私の名前が呼ばれた時は緊張のあまり、一瞬、意識が飛びそうになりましたが…。

まだまだ若輩者の身につき、格式高い式典にお声掛けいただいただけでもとても光栄に思いましたが、国内外のマリン業界の方々が参列する場に釣り師としての私がご一緒しているのは終始なんだか不思議でした。

 

石巻で造船されたこの第1号のボートは静岡県の方がご購入になられたとのこと。

こういった被災地発信型の商品を他県の方々がお買い求めいただけるのも、大きな被災地支援に繋がります。

 

最初は、かつての宅地の後に立てたビニールハウス(津波で被災した規制区域につき、新規に家を建てられない更地となった場所)から造船プロジェクトが始まったそうです。

海の街だけに、昔から船大工も多く、古来から造船も盛んにおこなわれてきた石巻。

このプロジェクトも、今日まで多大な労力と時間をかけたことだろうと、造船に従事された方のご苦労と志が垣間見えます。

それに比べれば私の活動など微力なものに過ぎませんが、ジャンルは異なれど「作り手」として少なからず、想いの重なるところがありました。

 

作者の方にとっては、喜びもひとしおだったことでしょう。

ボート産業に携わる方々にもぜひこれからも頑張っていただきたいですね。

 

 

仕事に戻る前―。

式典からの帰り、久々に市内を1時間ばかり歩いてみました。

台風19号の過ぎた日ということに加え、平日の午後ということもあるのかもしれませんが、すれ違った通行人は誰もいませんでした。

買い物や観光で来ている人の姿はこの日に限ってでしょうが見当たらなく、開いているお店も少ない。

かつての、にぎわい通りも今は閑散としている。

 

昔を思い出すと色々な「思い出」って、自然と蘇ってくるんですよね。

変わり果てたあの場所、この場所を静かに散策していると、おとな気ないですが、急になんとも言えぬ感情が湧いてきて胸が苦しくなりちょっと目元が緩んでしまいました。

市内散策。美味しい中華屋さんがあった場所の通り。

「………………。」

津波被害が甚大だったこの通り、私の好きだった中華料理屋さんがあったんですよね。

石巻では古くから有名だったお店。

優しい味の中華そば、小さな頃から食べ親しんだ味がとてもなつかしいです。

 

 

秋の風が少し肌寒く吹き抜けていく、今の石巻。

 

仲の良かった地元の友人の多くも震災後、石巻から去っていきました。

釣りをする人も、もともと釣りをしない人も。

釣りをする人でも震災を機に、海を怖がり、釣りをやめてしまった人も正直に言うと私の周りでは多いです。

もう一緒に釣りをすることもないのかもしれない。それもまた、今となっては現実です。

 

なぜならば、せっかく自分は生き残っても家族を失い、家を失い、仕事を失い、行き場をなくしてしまったのです。

 

震災後。

私には、少し想うところもありこの街に留まりましたが、置かれた立場だけでなく、時に気持ち一つで人の行動は変わってしまうものなのかもしません。

 

誰が悪いわけではないけれども、ある日突然起こった未曾有の大災害。

現実を受け止めることって、そう容易なことではないのです。

 

彼らの気持ちもよく分かります。

3月11日。

ここは、“それだけのこと”が起きた場所なのです。

 

昔の記憶を辿り歩いた街。

ただ一人、黙って歩いてみました。

 

秋。じきに冬を迎える東北の被災地。

今と向き合いつつも、気持ちを切り替えて―。

 

 

さぁ~て!

今日は今月27日発売予定の本、「ロックフィッシュ地獄10」の担当ページ校正日。

ロックフィッシュ地獄10

釣具屋さんへの配本は早いところで26日、本屋さんへの配本は27日だそうです。

あと10日ですね。

昨日、A編集長から「佐藤さん、初校あがったよー!」と連絡があったので、その際「10年って、早いですね~。」というお話もしました(笑)。

改めて、「ロックフィッシュ地獄、祝10周年おめでとうございます!」だと思います。

“地獄”の校正が終わり次第、来月発売のSALTWATERの原稿に着手します。もちろん、プロズワン業務と並行してですが。

 

今日も生きていられることに感謝。

元気を出して、本日もまた精進したいと思います。