ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

風の向こうにあなたを感じた日。

①

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

葉緑の絨毯(じゅうたん)の優しい感触が伝わる。

休日は昼下がりの午後、釣り竿片手に風を掻き分けて歩く気持ち良さを感じていたー。

 

 

 

 

「風の向こうにあなたを感じた日」。

 

 

 

 

サクラマス

大海から母川へと帰還を果たした桜鱒(さくらます)と同じ流れで育った仲間は、実にバラエティーに富む。

a

本流から支流に入り、さらに小水路にわけいること、人類が築いた文明の要塞をくぐり抜けたその先の小宇宙こそ、今回の物語の舞台。

 b

 

 

魚へんに念と書いて、読みは『鯰』(なまず)。

ナマズ

古来、この国には鯰に関する歴史や言い伝えが存在する。

そんなミステリーフィッシュであるキミもまた私にとっては、偉大なるスターなんだ。

 

 

今日は冒険だ!

輝かしい水面は清々しいまでの夏色を映し出している。

c

ナマズ探しの釣り旅は、いつの時代も大冒険になる。

一歩踏み出せば、永遠の少年が釣り竿をブンブンと振り回しているわけだから、はたから見ればおかしくもある。

 

 

 

それにしても、だ。

水無月の午後の水辺は、生き物たちの躍動感に溢れていた。

②

③

④

⑤

⑥

ちょっと気になる蛇の視線。

その視線の先に、何を見ているのだろうか。

 

豪邸を背負う蓑虫(みのむし)。

ノシノシと大迫力でレンズに迫るゾウムシ。

俺と撮ってくれ、と言わんばかりにポーズをとるアマガエル(両手に注目!)。

日なたぼっこ中のアメリカザリガニ。

未来?を見つめるアオダイショウ。

 

生き物との適切な関わり方を知ってさえいれば、相手にも安心は伝わる、というのもの。

自分より小さな相手にだって、敬意は必要なのだ。

生き物と人間のしかるべき距離を保ち、許してくれるギリギリまで挑戦してシャッターを切る行為が最近はめっきり楽しくなった。

カメラひとつでゾウムシは宇宙から来たエイリアンにもなるし、アマガエルはまるで知っているあの人のようにも擬人化して見えてくるから滑稽である。

身近な自然に目を向けることで、人生はこんなにも鮮やかさを増すことを長きに渡る釣り経験から学んできた。

 

ポコ、ポコ、ポコ………。

お気に入りのルアーが気持ち良さそうに凪いだ水面を走る。

⑦

ドォッパァーン!!

静寂を守る水面に、突然爆発が巻き起こった!

 

ぬん!!

⑧

待ってた、よ。

キミは、この小宇宙の主だもんね!

 

出逢えた充実感。

桜鱒同様、私の大切な友人である鯰(なまず)。

そして偉大なるスター!

 

 

 

夕方が迫ってきた。

どうやら、かなり遠くまで歩いて来てしまったようだ。

進んできた道を引き返すか、あるいはもう少しだけ…この先のまだ見ぬ水域まで進むのか、ふと立ち止まって風にその先の未来を仰いだとき、なつかしい声が聞こえてきた。

 

 

さ、帰りすぺ。

 

「えっ!?」

 

誰もいないはずの一人の空間、私はびっくりして思わず声をあげてしまったのだ。

それもそのはず。

 

確かにこの耳で聞いた声は今は亡き我が師。

二年ぶりに聞いたその声は、そよ風が黄泉(よみ)から運んだ幻聴だったのかもしれない。

 

けれど、私には確かに聞こえたのだ。

33年間も慣れ親しんだ声だもの、しかとー。

 

ふいをつかれたなつかしい声に、偏向グラスの奥の瞳からは一滴の雫が流れ落ちた。

 

じいさん、一緒に来てくれていたんだね。

その昔、祖父に連れられて歩いたこのなつかしい道を私は歩いていたー。

⑨

んだね!

一緒に、帰りすぺ。

 

 

 

世の中って、不思議なことがあるものなんですね。

先月末に三回忌の法要を終えた祖父のなつかしい声が、空の上から吹き降ろしてきた風に乗って私の耳元まで運んできてくれたようなんです。

 

人様に説明する際には、幻聴という例えでしかできないけれど、私にはそれは幻聴ではないことは確かに分かった、不思議体験。

心あたたまる懐かしい思い出が蘇るものでした。

鯰が暮らす水辺は例えようのない異世界との境界線でもある…ような気もしています。

先日体験した実話を、本日は物語風に綴ってみました。